2020年は十二支の始まり、ねずみ年です。築地市場からのねずみ大移動の話題も記憶に新しいですが、昨年、東京港区に現れた“ある一匹のねずみ”にまつわる本をご紹介。 
 『バンクシー 壊れかけた世界に愛を』吉荒夕記(美術出版社)では、2018年オークションの落札と同時に自らの作品を断裁して話題になった、正体不明のストリートアーティスト「バンクシー」の様々な活動と、その背景にある現代アートの成り立ちを解説する一冊。美術館に<わざわざ>行かなければ目にすることのできないアートは、万人に開かれたものと言えるのか?(あいちトリエンナーレでも話題となった)政治批判や社会風刺を主題とした作品は、アートと呼べないのか?バンクシーが既存のアートをおちょくりながら巻き起こす様々な騒動と作品は、私たちに「そもそもアートって何なんだ!?」という根源的な疑問を突きつけます。権力の側にいる都知事が、権力に抵抗する活動を続けるバンクシーの作品と推測される「ねずみ」に嬉しそうに寄り添って記念撮影をする姿に、奇妙なおかしさを感じる理由がわかるようになる本です。 
 そして「ネズミの奇妙な話」といえば、ドイツの不思議な伝説「ハーメルンの笛吹き男」を思い出す方も多いはず。ネズミ退治を申し出た男に対価を払わなかった村人の子供たちが、一夜にして男の笛の音によって忽然と姿を消してしまうというお話ですが、この話の背景には「1284年6月に130人の子供がハーメルンの町から一斉に消えてしまった」という事実があったということを知っていましたか? 
 なぜ子供たちは消えてしまったのか、笛吹き男とは何者なのか、その謎に迫るのが『ハーメルンの笛吹き男 伝説とその世界』阿部謹也(ちくま文庫)です。メルヘンとは違って、伝説は庶民の歴史そのものだという考え方から考察が深められていく過程は、まるで壮大な歴史ミステリを読んでいるようにも感じられます。
 中世のドイツでは、楽師と俳優は社会から排除・差別される存在だったという話や、「排泄されたばかりの糞を持ち歩いてそれに接吻しては蝿を装う者」がいたという祭りの様子に度肝を抜かれます。 中世から現代まで、さまざまな社会の「何か」を象徴し続けるねずみたち。その姿にあなたは何を見出しますか? (小笠原千秋)
※ 「ブック・カウンセリング」とは、様々な
      “事柄、モノ、人”などにマッチする本をお勧めする事業です。