「芸術の秋」なんてベタなお題にしてしまって申し訳ない。発想力は貧困ですが、今回はそれを補って余りある2冊の芸術に関する本をご紹介いたします。 
 来年行われる(のか?)「2020東京オリンピック」と幻の「1940東京オリンピック」、そして「1964東京オリンピック」を三重写しにし、今の日本では本当に言論の自由や人権が保障されているのか?ということをラディカルに問いかけてくる極めて優れた大河ドラマ『いだてん』。そのオープニングを飾るタイトルバック絵を手掛けた山口晃による『へんな日本美術史』(祥伝社/ 2012)が1冊目。「日本画って、なんかのっぺらとしていてイマイチよくわからない」と思ってしまう人にこそ読んで欲しい!みんな大好き「鳥獣戯画」では、どうして兎やカエルが楽しげに遊んでいるのか、「洛中洛外図」にはどうして雲がもくもく描き込まれているのか。その絵の成り立ちから、なぜその絵が私たちの心をざわつかせるのかまで、分かりやすい言葉で解説してくれます。もちろん、この本に書かれているのは山口氏の解釈であるのでそれが唯一の正解とは限りませんが、「下手なものはヘタ。でもね…」と正直に言ってくれちゃっているところが実に楽しい本なのです。
  そして、陶芸をテーマにした朝ドラ『スカーレット』の戸田恵理香の15歳設定に「無理がある」と思った人にも思わない人にもお勧めするのが、原田マハ『リーチ先生』(集英社/2016)。明治の時代に陶芸によって、日本とイギリスを繋いだバーナード・リーチの人生をめぐる物語。美術品であり工芸品である「器」が、日常で使うものであるという幸福に気づけるようになります。リーチという名を知らなくても、陶芸の歴史や見方がわからなくても、物語を追っていくうちにいろんな事を自然と学べてしまうのが原田マハの小説のすごいところ。実在しない人物が主人公ですが、読み終わった後にどこからどこまでが創作なのかを調べてみると、また違った物語の深みが味わえます。 
 美術館になんか行ったことないわ、という人も楽しんで読める2冊です。ぜひ、秋の夜長のお供にどうぞ。(小笠原千秋)
※ 「ブック・カウンセリング」とは、様々な
      “事柄、モノ、人”などにマッチする本をお勧めする事業です。