

コロナ禍の中でリモートワークが流行り、地方移住を希望する若者が増えているそうです。たしかに、満員電車の三密はこわい。でも、物質的な豊かさを捨ててまで地方に住むことに、どんなメリットがあるんだろう?そんな疑問に答える2冊の本をご紹介します。
『都市と地方をかき混ぜる 「食べる通信」の奇跡』(光文社新書)は、限定1500部の食べ物付き情報誌を発行し、地方の農漁業と都市の消費者を丁寧につなぐ取り組みを始めた高橋博之氏がその熱い思いをつづった本。豊かなはずなのに空虚さを抱える都会の人たちに「故郷」を持ってもらい、農漁業を担う当事者として生きる意味を取り戻してほしい――そんな思いからつくられた「食べる通信」は、1500人の枠がたちまち埋まり、キャンセル待ちが何百人と出る人気マガジンとなっています。丁寧につづられた物語としての「食」を手にすることによって、安く大量に消費するむなしさから逃れ、心のふるさとまで手に入れる。そのことによって自分の消費の仕方を見直す人が続出し、移住を決意したり地方へ嫁いだりする人まで出てきたという展開は、「食=農漁業」というものがいかに私たちの「生き方」を形作っているかを教えてくれます。
そして、その地方そのものが自立して魅力的であるために必要なのが「地元経済」です。仕事がないから人が出ていく、人が出ていくから仕事が失われる。その悪循環を断ち切るヒントを教えてくれるのが枝廣淳子『地元経済を創りなおす―分析・診断・対策』(岩波新書)です。
補助金などで地域にお金が入ってきたとしても、すぐに地域外に出て行ってしまっては意味がありません。じゃあ、どうやったらお金を地元の中で循環させられるのか。ひとつは一番大きな流出原因の「エネルギー」を地元で生み出すこと。そしてもうひとつは、私たち一人一人の「買い物の仕方」を変えること。 難しそうに思えるかもしれませんが、どちらも行政の手を借りずとも、できてしまうことでもあります。「地元には何もない」とぼやく前に、自分ができることがあることを知って行動に移すこと。小さな一歩は、やがて大きなうねりになることを確信させてくれる各地のレポート満載です。
物質的な豊かさよりも、精神的な豊かさへ。その価値の転換点にあって、地方の魅力はますます際立ってきている、そんなことを予感させる2冊の本です。 (小笠原千秋)
※ 「ブック・カウンセリング」とは、様々な “事柄、モノ、人”などにマッチする本をお勧めする事業です。